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「ガシャン!」
大雨のなか、私は自転車ごと道路に投げ出されておりました。一瞬何が起こったかわからなかった私はCIAにでもおそわれたのかと思いましたが、さにあらず。大雨で視界不良となった状態で、自動車がバックでコンビニの駐車場から出てきたため、私に気づかず私をはねたらしいのです。しかも未だに気づいてないらしく、車はどんどん私の方に近づいてきます。まさに絶体絶命のピンチ!
このピンチに焦っていた私は「ちょっちょっと待って!」
とふさわしいのかふさわしくないのかよくわからない単語を発しながら迫りくる車の運転手に僕の存在を告げたのです。
幸いなことに僕に気づいてくれた運転手は、すぐさま降りてきて、警察を呼び、その後病院に行って精密検査を受けた後、自転車屋に行き、壊れてないか調べることになりました。
駆けつけた警官には人身事件にしないのか?と聞かれましたが、運転手はすぐさま謝っておりましたし、人身事故として警察に届けたところで相手の免許の点数が減るだけであり、けがもしていなかったので人身にはしませんでした。
警官がきた当初、北九州にもかかわらず、私が山口の自転車防犯登録のシールを貼っていたため、まるで私がなにか悪いことをしたような聴取をされましたが、「大学生です」と告げると、「ああ、大学生ですか」とすべての謎が氷解したがごとく、私の身元に対する聴取が終わりました。
世間では大学生はいったいどういうイメージをもってみられているのか非常に興味深い出来事でした。学生だったらなんでもありかと。
精密検査をした病院の医者が山口大学出身だったりして、なんとなくほんわかとした空気が流れる中、とりあえず示談にしようということになり、その運転手の家に行くことになったのです。
この私をひいた方の家は山の斜面に建っており、しかも屋根がピンク、壁が緑というかなりサイケデリックな配色のお宅だったのですが、家の中には宗教画が目立つところに張られておりました。
私は「もしや・・・」と思いつつも、つつがなく示談を終え、生涯で初めての示談書を自ら作成し、これでこのお宅からおさらばということになったのですが、この私をひいた方が、私に今日はどこに泊まるんですか?と聞かれたため、宿のことを全く考えていなかった私は「そこらの神社で泊まります」と答えますと、じゃあ泊まっていきませんか?ってことで、その日の宿がさくっと決まりました。
あまりの大雨だったため、びしょぬれだった私のために風呂を沸かしてくれ、洗濯もしてもらった後、私はその人の子供部屋で夕食まで待つことになりました。
この子供部屋、当時大流行であったポケモングッズが所狭しと並べられており、任天堂の底力を感じたのですが、そんなこととはお構いなしに、疲れ切っていた私は持ってきていたCDウォークマンでジミヘンを聞きながら眠っていると、そこへこの部屋の主が帰って参りました。
話を聞くとこの部屋の主は小学一年らしく、しかもやたらと礼儀正しい少年。目なんてきらきらしています。私が小学一年生の頃はというと、すでに死んだ魚の目をしている幼き私の写真がちらほらと残されているような状況でした。なにせ私の周りの友人たちがことごとくろくな人間がおらず、私が彼らに影響を受けたのか、はたまた彼らが私に影響を受けてこんな状態になってしまったのか、それはわかりませんが、とある友人にいたっては小学生にして畑の野菜をついばむからという理由でM−16ライフルモデルガンを片手に小鳥たちを打ちまくるという、今なら逮捕まっしぐらな行為をしているたものまでいます。ちなみに小鳥たちに当たらなかったBB弾はことごとく野菜たちにめり込み、小鳥が与える被害の何十倍かを彼のBB弾が与えていたことは隠しようのない事実です。
そんな我々の幼少時代とは明らかに別世界にすむ礼儀正しい少年と気まずい空気が流れましたので、私はまず音楽の話で切り込んでみました。そしてジミヘンを聞かせてみたのですが、好きな曲はポケモン数え歌という彼にはお気に召さず、さらに気まずい空気。そんな気まずい空気を敏感に察したのか、彼は去年まで通っていた幼稚園でもらったという絵本を私に読んでくれとせがみました。
その絵本は確かロボットが意思をもって幼稚園児たちと遊ぶというような内容だったのですが、ロボットなのに幼稚園児たちと肉弾戦を行うというおよそロボット三原則を無視した行動をとるような話でした。またこの本は異常にながく推定100ページはあろうかというような長編。ただでさえ車にひかれて疲れているのにこの100ページを声をだして読み聞かせなければならないというのはある意味拷問。
20ページあたりで冷や汗が出だし、50ページあたりでそろそろ意識が遠のきかけたんですうが、そこに絶妙なタイミングで食事の用意が出来ましたと私をひいた方からストップがかかりました。後3ページ読んでいたら私は今頃、こんなコラムは書けていないでしょう。
この少年とともに料理の用意されている部屋に行きますと、そこには私をひいた人、その人の夫、そしてもう一人男性が。この男性のことを私をひいた人は「兄弟」とよび、この「兄弟」も私をひいた方を兄弟と呼びます。なんでこの人たちはやくざのように自分たちを呼び合っているのだろうと思いましたが、話を聞いているとどうやらこの「兄弟」は宗教上の兄弟という意味のようでした。
そして当然のごとく食事前のお祈りが始まってしまったのですが、信者でない私はどうしたものかわからず、とりあえず合掌してぶつぶつ言ってみました。
そんなこんなでビールも出て宴会が始まったのですが、当然私はなぜこんなことをしているかに質問が集中しました。
夫「自転車はやっぱり専用のものを?」
私「いえ、外に止めてあったあれです」
夫「・・・」
いわゆる大学生がよく乗っている普通の自転車だったので、驚いたようです。
兄弟と呼ばれる人「やっぱり地図とかをもって回ってるんですか?」
私「いえ、標識をみながらです、地図は持ってません」
兄弟と呼ばれる人「・・・・」
この会話をきいた私をひいた方の夫が地図がなければ不便だろうということで持ってきなさいと地図を一枚くれました。ただ、この地図、高速道路の地図でして、当然自転車な私は高速道路に乗れるわけもないのですが、ありがたくちょうだいいたしました。
夫「テントとか寝袋とかでねてるんですか?」
私「いえ、地べたです」
私をひいた人「そうそう神社でねるんですよね」
夫「・・・・」
私の感覚では2.3日で九州は回れるはずだったのでそもそも寝袋を持って行くという概念自体が存在しなかったのですが、やはり無謀に思えたようで。
というように話をふられては私が異常な回答をするため、話が盛り上がっているのか盛り上がってないのかいまいちわからない状態でしたが、どんどんビールのピッチをあげていき、途中神様的な話も振られたのですが、すでに泥酔状態にあった私は小学一年生と一緒にミニカーを畳の上で走らせ遊んでおりました。
しかし、この泥酔状態の中で聞かれた言葉
「なぜあなたは九州一周しようと思ったんですか?」
との問いに、そのときは暇だからです、と答えましたが、宴会が終わり寝床につきポケモンたちの視線を感じながら、私はそれについて自問自答しておりました。
次の朝、天気も晴れ、むしろあついぐらいの日差しの中、このお宅を出発することになりました。
朝出るときに「これ、お弁当です」といって水とおにぎりをくださいました。このおにぎり、具がキャビアというすごいものだったのですが、サイズもテレビドラマ「裸の大将」にでてくるばりの大きさのおにぎり。
またもう一つ、旅のお供にと広辞苑サイズの聖書を渡されそうになったのですが、さすがにこれは丁重にお断りしました。
また困ったときにはここに行けば泊めてもらえると、九州中のこの方が信仰されている宗教の教会マップもいただいたんですが結局このマップは利用せずじまいでした。なにせ信者でもないのに、泊めてもらうというのはちょっとという気持ちがありましたし、なんとなく訪ねたら勧誘されるんじゃないかという心配もありました。この泊めてくれた人に勧誘などはされませんでしたが。
最後に「九州を回りきったらまたここによってくださいね」と送り出され、私は次なる目的地に向かい走り出したのです。
この私を泊めてくれた方の宗教は結構有名な新興宗教です。それまで新興宗教というとあまりいいイメージはなかったのですが、少なくとも、私を泊めてくれたこの人個人はかなり親切な人でした。かといってこの人が信仰する宗教団体自体はいいものなのか悪いものなのかそれは私にはわかりませんし、入信しようとも思いません。ただ、この方個人は非常にいい人であったという事実のみが残っております。
h15.7.18
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